2026年1月30日金曜日

古い問い ― 本当にDAWごとに音は違うのか?

今では誰もがDAWで音楽を作っています。ハードウェアシーケンサーにこだわって制作する人もいますが、結局最終段階ではDAWで録音・編集・ミックスを行うことになります。音楽がデジタルで消費される時代であることもそうですし、DAWは作業を仕上げるための現実的な標準だからです。


近年のDAWは全体的に上位互換が進み、どのプログラムを選んでも音楽制作に大きな支障はありません。ただし各DAWは出発点が異なるため、機能やワークフローに明確な個性があります。

LogicはMIDI/譜面作業がしやすく、Ableton Liveはセッションベースでライブ感覚の制作に強く、Pro Toolsはスタジオ標準としてセッション互換とオーディオ編集が強力です。


確かなことは一つ。どのDAWを使っても音楽は作れます。

あなたが「本物」なら。


ただ今日は機能の話ではなく、多くの人が一度は感じたことのある、あの“体感”について話してみようと思います。



「Pro Toolsに載せると何かが変わる」という感覚


Pro Toolsのあるスタジオにマルチトラックを持ち込んだことがある人なら、似た経験があるはずです。


「何かが違う。」


特に、Pro Toolsのセッションにトラックを載せたときに感じる空間の広さや、整った印象。この話題はいつも議論になりがちですが、今日は私の経験を通して、その違いが“どこで”生まれた可能性が高いのかを話してみます。



Logicの音 ― 「くどさ」から始まった疑問


私はLogicを7の頃から使ってきました。Logic 8を使っていた時期に初めて自分の作品をスタジオ(=Pro Tools環境)に持ち込んで作業したことがありますが、その時は特に気づきませんでした。ところが、スタジオ作業のあと家に戻ってLogicで聴き直した瞬間、馴染みのある音が急に「くどく」感じられたのです。


良く言えばアナログ的な質感、あるいはコンプレッサーが軽くかかったような“詰まった”音。しかし状況によっては、その質感が過剰に感じられることもありました。もちろんこの点は、7→8→9→10とアップデートを重ねるにつれて徐々に改善されたと思っています。



The City pt.1制作で確信した瞬間


これは2020年にリリースしたEP『The City pt.1』制作時の話です。



当時もシーケンス作業はLogic Proで行い、そのトラックのマルチトラックデータをPro Toolsのスタジオに持ち込みました。ところが、マルチトラックをセッション上に並べた瞬間、違和感を覚えました。全体がやたらとmuddy(濁って)聞こえたからです。


詳しくチェックすると、まるで全トラックの200〜300Hz付近が厚く感じられるような印象がありました。


そのとき私は、各トラックを一つ一つ「バウンス」してマルチトラックデータを用意していました。しかし後になって気づいたのです。


Logicでは、ステムを「エクスポート」で書き出すのと、「バウンス」で書き出すのとでは、結果として違う印象を生むことがある、と。


私が感じた体感は、だいたいこういう方向でした。

  • Export(エクスポート):MIDIデータが比較的「そのまま」オーディオに変換される感覚

  • Bounce(バウンス):Logic内部のミキサー経路の影響をより強く受ける感覚


ここから私の考えは、「DAW間のサウンド差」論争というより、むしろもっと現実的な方向に移っていきました。


同じDAWの中でも、「どう出力するか」でサウンドの印象は変わり得る。



では、DAWごとに音は本当に違うのか?


私の結論はシンプルです。


はい、違って感じられることはあると思います。

ただ私はこれを「DAWエンジンそのものの差」と断定するよりも、私が実際に体験したように、同じDAWの中でも出力方法(Bounce vs Export)によって結果の印象が変わり得ること、そしてサードパーティ音源のレンダリング過程で生じる微細なタイミング/スタートポイントの差のような現実的な要因が、その体感をより大きくする可能性があると考えています。(もちろん各プログラムの内部処理/エンジンの差の可能性を完全に排除できるわけではありませんが。)


そこで簡単な実験を用意しました。下のスクリーンショットは、Logic内で簡単なMIDIノートを入力し、Logic内蔵の仮想音源で鳴らしたものを内部バウンスした際の画像です。



ご覧のとおり、スタートポイントがずれているのが分かります。

このようなタイミングのズレは、サードパーティ音源を使ったときにさらに顕著になります。下はKompleteの音源でバウンスした際の画像です。



この一見小さく見える「エラー」も、全体のサウンドに影響しているはずだと私は考えています。



では何を使えばいいのか


結論として、私はどのDAWを使っても構わないと思っています。A/Bテストをしない限り、誰かが音楽を聴いて「これはこのDAWで作った」と当てるのは、ほぼ不可能に近いでしょう。


音の違いはあるかもしれません。でも、それがどうした? という話です。


その違いが自分の創作活動に大きな支障をきたさないなら、あるいはその違いを自分の音楽の中にうまく溶け込ませられるなら、それは結局「自分の音」になります。自分が使うプログラムが自分の制作スタイルに合っているなら、なおさらです。


エレクトロ系ミュージシャンBTの『Movement in Still Life』は、すべてLogic内でミックスされた楽曲で構成されていることで知られています。しかしその音楽を聴いて「Logic特有の押しつぶされた音」を思い浮かべる人は多くないはずです。結局、音楽は人が作るものです。


みなさんの時間と情熱は限られた資源です。

その限られた資源を証明合戦に使うより、もっと良い曲を作り、もっと多く完成させることに使ってほしいと思います。



(短いメモ)スタジオにマルチトラックを持ち込む中で得た教訓

  • 同じプロジェクトでも、BounceとExportで印象が変わり得る

  • ステムの準備方法は「DAW論争」よりも実際の結果に大きく影響する

  • 結局大事なのは道具ではなく、完成させて判断する人間だ